大往生考 第70話
医道と組織の狭間で
佐野 海那斗
2025年10月号
遠藤周作が好きだ。とりわけ『沈黙』と『海と毒薬』の2作に心惹かれる。宣教師と医師が、その使命と現実の狭間で苦悩する姿は、示唆に富む。
遠藤が、この2作を著したのは、宿命といってよいだろう。世に知られる通り、彼はカトリック信徒であったが、同時にその先祖は鳥取藩の御典医だった。聖職者や医師の葛藤は、遠藤の最大の関心事として、成長とともに膨らんでいったのだろう。
最近、遠藤作品を思い返す機会があった。その患者は50代後半の男性で、8月末に都内の病院で肝不全のため亡くなった。
私が患者と出会ったのは3年前で、知人の紹介により私の外来を受診した。患者は広告代理店の営業職だった。長年の不摂生のせいか、肥満と糖尿病を抱えていた。一方、父親が肺がん、母親が子宮頸がんでいずれも50代で亡くなっていたため、がんに対する警戒心は人一倍だった。2年に1度は専門病院での検診を受け続けていた。
3年前のがん検診で肝臓がんがみつかった。B型およびC型肝炎ウイルスは陰性であったため、脂肪肝に起因する肝臓がんと診断された。
脂肪肝は、高齢化や生活習慣病の増加・・・
遠藤が、この2作を著したのは、宿命といってよいだろう。世に知られる通り、彼はカトリック信徒であったが、同時にその先祖は鳥取藩の御典医だった。聖職者や医師の葛藤は、遠藤の最大の関心事として、成長とともに膨らんでいったのだろう。
最近、遠藤作品を思い返す機会があった。その患者は50代後半の男性で、8月末に都内の病院で肝不全のため亡くなった。
私が患者と出会ったのは3年前で、知人の紹介により私の外来を受診した。患者は広告代理店の営業職だった。長年の不摂生のせいか、肥満と糖尿病を抱えていた。一方、父親が肺がん、母親が子宮頸がんでいずれも50代で亡くなっていたため、がんに対する警戒心は人一倍だった。2年に1度は専門病院での検診を受け続けていた。
3年前のがん検診で肝臓がんがみつかった。B型およびC型肝炎ウイルスは陰性であったため、脂肪肝に起因する肝臓がんと診断された。
脂肪肝は、高齢化や生活習慣病の増加・・・









