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連載

テイレシアスの食卓 vol.36

議論と政治好きのフランス人
河井 健司

2026年3月号

 ムーラン・ルージュは、パリ18区モンマルトルに古くからある高級キャバレー。画家のロートレックと関係が深く、フレンチカンカンで有名。店舗の営業が始まったのは、エッフェル塔が完成した1889年。長らくパリの夜を彩ってきた老舗の屋根上には、店舗名そのままに、赤い風車が今も飾られている。
 ベルエポックと呼ばれた時代の名残りはさておき、フランス語で、ムーランアパロル(moulin à paroles)という熟語がある。まるで風車のごとく、上手に舌が回る人を指す言葉だ。良くいえば話し上手、悪くいえば鉄棒引きも意味するが、副料理長として働いたパリのレストランで、フランス人スタッフの多くは、まさにこれだった。
 ある日、饒舌な部下たちに手を焼いていたところ、料理長から助言を受けたことがある。作業ミスの言い訳をさせたらフランス人は世界チャンピオンに違いない、だから聞く耳を持つな、とのこと。どうやら本人たちに舌が回りすぎる自覚はあるらしい。
 もちろん、寡黙なフランス人との出会いもあった。さらには、「雄弁は銀、沈黙は金」といったことわざも存在する。しかしなが・・・

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