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経済

加入者をしゃぶり尽くす損保業界

値上げ連発で生き延びる「厚顔無恥」

2010年1月号公開

 焼け太り─とは、まさにこのことではないか。東京海上ホールディングスをはじめとした損害保険各社が年明け早々から、火災保険料の実質大幅値上げに踏み切る。新築住宅の六割超が値上げの対象となる見込みで、上げ幅は最大四〇%にも達する見通し。住宅着工件数の落ち込みが続き、あまつさえデフレが日増しに深刻化するなかでの「厚顔無恥」ともいえる所業に、住宅・不動産関連業界などからは「ふざけるな!」の声が飛んでいる。
 

本来ならば値下げこそスジ


 今回の実質値上げは「住宅の構造級別の区分集約化」(あいおい損保幹部)に伴って実施されることになっている。火災保険料はこれまで、対象となる住宅の柱や外壁、屋根の構造を総合判断してその耐火性能を五段階評価、それに応じて料金が決まる仕組みとなっていた。鉄筋コンクリート造戸建て住宅の「A」から、旧来型一般木造住宅の「D」までの順に四つと、「マンション」(=M構造)を加えた五ランクで、戸建ての場合、Aに近づけば近づくほど耐火性能が高いとされ、従って保険料も安くなる。
 それを今年からは事実上、柱の構造だけで耐火性能を評価できるよう査定業務を大幅に簡略化し、料金体系も三区分に集約する。これまでのAとB(=外壁がコンクリートの木骨住宅)を「T(=耐火)構造」に、ALC(軽量気泡コンクリート)外壁製木造住宅の「C」とDを「H(=非耐火)構造」にそれぞれ一本化し、M構造はほぼそのままスライドさせるというもの。
 事がこれだけなら、目くじらを立てるほどのこともない。だが問題は、この区分体系の見直しに便乗し、従来のAランクの保険料をBに、またCランクをDにサヤ寄せさせる形でいずれもなし崩し的に料金が上がる「加工」が施されていることだ。つまりA、Cランクの住宅を購入しようとしている人にとっては、保険料負担がこれまでよりはるかに重くのしかかってくることになるのである。損保各社が傘下代理店などに配布している資料によると、上げ幅はAで従来比約二〇%。Cに至っては何と一気に四〇%もアップするという凄まじさだ。
「見直しで逆に値下げの恩恵を受ける層もある。Bランクの住宅は保険料がおよそ二割下がる見込みで、M構造は据え置き。Dも五%アップにとどまる」。三井住友海上幹部はこう釈明するが、大手住宅メーカー関係者の一人は「詭弁だ」として、鼻で笑う。外壁がコンクリートの木骨住宅という、B区分住宅など日本ではほとんどお目にかかれず、戸建て新築の大半は外壁にALCを使ったC区分となっているからだ。
 そもそも今回の区分集約化の伏線となったのは、二〇〇七~〇八年にかけて相次いで発覚した損保各社による「保険料取り過ぎ」事件だ。
 東京海上で百二十四億四千六百万円、三井住友海上が五十九億七千六百万円、損保ジャパン四十七億六千百万円など、大手六社合わせて百三十五万件、計三百十億円にものぼる取り過ぎが明るみに出たもので、その約八割が火災保険で起こった。
 複雑な査定や特約の仕組みなどに現場の対応が追い付かず、余分な保険料を徴収し続けていたのだ。そこで、特約類を整理・縮小するとともに区分集約化を図って現場事務を簡素化し、「保険料取り過ぎ問題の再発を防止する」(損保ジャパン首脳)といった名目の下に打ち出されたのである。
 ところがその実態は、こうした美名を隠れ蓑にした「犯罪的ともいえる値上げ」(住宅大手幹部)だったのだ。
 損保各社がよりタチが悪いのは、実質値上げに関する説明責任を全く果たしていないばかりでなく、「本来なら保険料はむしろ下がってもおかしくない」(金融筋)という事実をも覆い隠していることだろう。区分集約化によって査定などに費やす人件費や事務コストは大きく軽減されるうえ、特約などを整理したことでシステム負荷が格段に少なくなっているのだ。
 しかも実は住宅災害は、このところじわり減少傾向にあるのだ。こと「火災」に限っては、総務省消防庁によれば、建物火災の件数は〇七年が三万一千二百四十六件で前年比〇・八%減。〇八年にはさらに三・八%減少し、三万五十三件にとどまった。要するに事業運営経費の縮小が見込めるだけでなく、リスクそのものも減っているわけで、本来であれば値下げこそ本スジだろう。

業界の低モラルぶりあらわ


 そんななか業界が血道をあげようとしているのが、「もう一つの値上げ工作」(日本興亜損保幹部)だ。各社の保険料収入に占める割合では火災保険の一四%をはるかに上回る最大の収入源─「自動車保険」の一斉値上げである。
 すでに地ならしは終わっている。損害保険料率算出機構(旧料率算定会)が〇九年夏、保険料を決める際の「参考純率」を平均五・七%引き上げる、との方針を打ち出したからだ。参考純率は、契約者一台当たりの純保険料が一台当たりの支払い保険金と均等になるように算出される。機構では〇七年度の実績統計などをベースに「保険料の高い若年ドライバーが減る一方、高齢者の事故増加で支払い保険金が増えており、このままでは保険収支が赤字になる」として、九年ぶりの引き上げに踏み切ったのだ。
 自動車保険に関しては〇八年にニッセイ同和損保を除く大手五社が五月雨式に一・〇~二・五%の値上げを実施。〇九年にも東京海上など一部が一・三%前後上げている。今年も値上げが行われるようなら、事実上三年連続の「暴挙」(自動車大手首脳)。損保業界関係者は「今回は算出機構によるお墨付きがある」(幹部)と嘯くが、そもそも機構は業界各社の加盟で成り立っており、我田引水のそしりは免れまい。
 〇九年度九月中間決算。東京海上を除く大手各社の正味収入保険料は、三井住友海上の前年同期比六・三%減を筆頭に軒並みダウンした。損害率に経費率を加えたコンバインド・レシオは九九・八%だった東京海上以外は全社とも採算分岐点とされる一〇〇%を超えており、保険本業はいずれも赤字。新車販売や住宅着工低迷などによる収入の落ち込みに、効率化が追い付いていない状態だ。金融危機の緩和による資産運用収益の拡大で経常利益こそ回復したものの、下期は台風十八号の災害に伴う保険金支払いだけで計五百三十億円の支出増もあり、経営環境の厳しさはなお続く。
 とはいえ、損保業界のリストラの手ぬるさは金融界でも「折り紙つき」(大手行幹部)だ。自らは血を流すこともなく、契約者への安易ともいえる料金転嫁で苦境を乗り切ろうと企むその姿勢は、「取り過ぎ事件」で露呈した損保業界の低モラルぶりが何ら払拭されていないことを如実に物語っているかのようだ。


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