連載〈クローズアップ〉好機をことごとく見逃した荻田伍(アサヒビール会長)
余裕すら持って勝っていたはずのゲームが、気がついたらあらゆる局面で負けている。心の中の焦りは抑えているが、手詰まりで有効な打開策が打ち出せない。このまま進めば思いもよらぬ破局的敗北に進みかねない─。アサヒビールの荻田伍社長の心境は今、そんなところではないか。
「良いM&A案件があれば、カネに糸目はつけない」
経営のベクトルは微動だにしないとしているが、現状では、ほとんど負け惜しみに近い発言でしかない。アサヒはこのところ、経営のあらゆる局面で「立ち遅れ」が目立っていたが、もはや敗戦としか言いようがない事態となっている。中でもキリンホールディングスとサントリーホールディングスの経営統合構想は、アサヒにとっては悪夢そのものに違いない。両社の提携はビールというジャンルを超えて食品最大手と二位の統合を意味する。多くのジャンルで断トツの存在として屹立し、アサヒはその後姿を遠くから眺めなければならない立場に陥る。
「チャンスは貯金できない」とはアサヒの中興の祖・樋口廣太郎元社長の名セリフだ。樋口氏は在任中、財テクの失敗で巨額損を出すという汚点を残したが、一方で「スーパードライ」への集中戦略を推進。これが一九九〇年代末にアサヒがビール市場で、キリンの「ラガー」や「一番搾り」を叩き、シェアトップに躍進させる原動力となったのは事実である。
荻田社長にとって、「貯金できない」チャンスは少ないものではなかった。しかし、そのチャンスをことごとく逸した。例えば二〇〇七年、サッポロの株式を買い占めていたスティール・パートナーズとの株式引き受け交渉で、「サッポロへの支援は相乗効果がない」とあっさり引き下がった。アサヒとサッポロはもとをただせば旧大日本麦酒の同根企業だが、アサヒはみすみすホワイトナイトとなるチャンスを逃した。同様な局面で、日清食品が明星食品を傘下に収めたのと決定的な違いだ。サッポロは今ではアサヒを警戒し、ポッカコーポレーションと手を結ぶなど距離を置き始めている。
見逃したチャンスのもうひとつは「スーパードライ」に拘泥し、発泡酒、そして第三のビールへの進出に大きく立ち遅れたことだ。ビールと発泡酒はすでにマイナス成長に陥り、伸びているのは第三のビールのみである。これに対してキリンは、「スーパードライ」に一敗地にまみれたことから発泡酒「淡麗〈生〉」を同分野のトップ商品に育てた。発泡酒はキリンにとって?狗肉の策?以外の何ものでもなかったが、活路はそこにしかなかった。「淡麗〈生〉」で勢いを取り戻し、第三のビールでも「のどごし〈生〉」など立て続けにトップシェア商品を出している。
キリンが単独で、つまりサントリーのシェアを合わせなくてもビール系飲料トップの座を奪回できたのは、こうした営々とした努力の積み重ねによる。食品メーカーの実力を測る物差しである原価率でも、アサヒは四・七ポイントの大差でキリンに負けている。「スーパードライ」の全盛時代、原価率の低さでもキリンを圧倒していたにもかかわらず、だ。経営トップが好機を次々と逃した結果、樋口氏がアサヒに残した貯金はもう尽きようとしている。
「良いM&A案件があれば、カネに糸目はつけない」
経営のベクトルは微動だにしないとしているが、現状では、ほとんど負け惜しみに近い発言でしかない。アサヒはこのところ、経営のあらゆる局面で「立ち遅れ」が目立っていたが、もはや敗戦としか言いようがない事態となっている。中でもキリンホールディングスとサントリーホールディングスの経営統合構想は、アサヒにとっては悪夢そのものに違いない。両社の提携はビールというジャンルを超えて食品最大手と二位の統合を意味する。多くのジャンルで断トツの存在として屹立し、アサヒはその後姿を遠くから眺めなければならない立場に陥る。
「チャンスは貯金できない」とはアサヒの中興の祖・樋口廣太郎元社長の名セリフだ。樋口氏は在任中、財テクの失敗で巨額損を出すという汚点を残したが、一方で「スーパードライ」への集中戦略を推進。これが一九九〇年代末にアサヒがビール市場で、キリンの「ラガー」や「一番搾り」を叩き、シェアトップに躍進させる原動力となったのは事実である。
荻田社長にとって、「貯金できない」チャンスは少ないものではなかった。しかし、そのチャンスをことごとく逸した。例えば二〇〇七年、サッポロの株式を買い占めていたスティール・パートナーズとの株式引き受け交渉で、「サッポロへの支援は相乗効果がない」とあっさり引き下がった。アサヒとサッポロはもとをただせば旧大日本麦酒の同根企業だが、アサヒはみすみすホワイトナイトとなるチャンスを逃した。同様な局面で、日清食品が明星食品を傘下に収めたのと決定的な違いだ。サッポロは今ではアサヒを警戒し、ポッカコーポレーションと手を結ぶなど距離を置き始めている。
見逃したチャンスのもうひとつは「スーパードライ」に拘泥し、発泡酒、そして第三のビールへの進出に大きく立ち遅れたことだ。ビールと発泡酒はすでにマイナス成長に陥り、伸びているのは第三のビールのみである。これに対してキリンは、「スーパードライ」に一敗地にまみれたことから発泡酒「淡麗〈生〉」を同分野のトップ商品に育てた。発泡酒はキリンにとって?狗肉の策?以外の何ものでもなかったが、活路はそこにしかなかった。「淡麗〈生〉」で勢いを取り戻し、第三のビールでも「のどごし〈生〉」など立て続けにトップシェア商品を出している。
キリンが単独で、つまりサントリーのシェアを合わせなくてもビール系飲料トップの座を奪回できたのは、こうした営々とした努力の積み重ねによる。食品メーカーの実力を測る物差しである原価率でも、アサヒは四・七ポイントの大差でキリンに負けている。「スーパードライ」の全盛時代、原価率の低さでもキリンを圧倒していたにもかかわらず、だ。経営トップが好機を次々と逃した結果、樋口氏がアサヒに残した貯金はもう尽きようとしている。
















