トヨタ「章男経営」に早くも綻びプリウス「ゴリ押し」で販売網が大混乱
新型プリウスの生産拠点である愛知県豊田市のトヨタ自動車堤工場。排気量を三〇〇・引き上げ、装備を充実させたのにもかかわらず、前モデルより三十万円安い最低価格二百五万円からという「割安感」が受けて、同工場の操業はフル稼働の状態だ。発売後一カ月で十八万台の受注を受けるなど、「販売店からの要請に応えられないほどの予約」(トヨタ幹部)に対応するため、同工場が持つ二ラインはどちらもプリウスを流すなど異例の対応を実施。さらに高級ブランド「レクサス」の不振で余った田原工場などの従業員を一千人規模で受け入れるなど、熱気に包まれている。一分当たり一台のペースでプリウスができあがっているが、この速さは「国内の工場で過去最速のスピード」(堤工場関係者)だと胸を張る。
この新型プリウスの大ヒットをもたらした最大の要因は何と言っても値付けだろう。二月にライバルのホンダが「インサイト」を二百万円を切る百八十九万円で発売し、トヨタの独壇場だったハイブリッド車(HV)の分野に殴り込みをかけてきた。発売から二カ月の受注が二万五千台を記録するなど滑り出しも上々で、昨秋のリーマン・ブラザーズの破綻以降、新車販売が萎んでいたなかで久々に明るい話題を振りまいた。これに過剰に反応したのが六月二十三日の株主総会後に晴れて社長に就任したトヨタの豊田章男氏だ。
「他のクルマが売れない」
日ごろから「お客様目線」の販売戦略を標榜する章男氏は、インサイトのヒットを受け、新型プリウスの価格について幹部に注文を付けた。「何とかインサイトに流れるお客を食い止めろ」。こうした章男氏のまさに鶴の一声で、当初予定していた二百三十万?二百四十万円の最低価格は大幅に見直された。「ある幹部は二百万円を切る価格を提案した」(トヨタ関係者)との証言もあるが、最終的に十四年ぶりに創業家から誕生する新社長の体面と「何とかヒットさせないといけない」(同)との周囲の配慮から、「どうにか採算に乗る」(同)二百五万円という最低価格に決定した。
しかもインサイト潰しのために従来は「トヨタ店」や「トヨペット店」に限っていた販売網に新たに「カローラ店」「ネッツ店」を加え、全四系列での販売も決めた。さらに旧型プリウスをインサイトと同じ百八十九万円に値下げし、これもトヨタ初となる新旧併売を実施、圧倒的な物量作戦でインサイトに対抗することにした。
株主総会に先立つ五月十八日には章男氏自らが新型プリウスの発表会の主役として登場した。この日も章男氏は終始引きつり気味で、会見後の記者の囲み取材も早々に切り上げるなど相変わらずの「メディア嫌い」「引っ込み思案」ぶりをみせたが、販売担当の幹部は「何とか無難に乗り切った」と胸をなで下ろした。しかし、今から思えばトヨタの苦悩はこの日から始まったことになる。
実は新型プリウス発売直後から、「他のクルマがほとんど売れていない」との嘆きが多くの販売店から聞こえ始めた。トヨタ幹部も「プリウスを除いた新車販売は前年比七割程度」と認めるように、新型プリウスが他の車種を食い始めた。深刻なのは「レクサスやクラウンを購入していた上顧客が、装備が充実して割安な新型プリウスに乗り換えるケースが増えている」(大手系列ディーラー幹部)ことだ。
さらに販売サイドが懸念するもっと大きな問題は、新型プリウス以降の車種の値付けである。この夏、トヨタはHV車ではレクサスで初のHV専用車「HS250h」を売り出すほか、今秋にはHVセダン「SAI」を発売する。だが「この新型プリウスの低価格が後続の新車価格にも影響を及ぼしている」(トヨタ関係者)。つまり、いったん売れ筋車種の車両価格を下げてしまうと「後続車種も勢い値下げせざるを得ず、従来の価格体系が崩壊する」(トヨタグループ会社幹部)事態を招くのだ。
新型プリウスも含め、通常、新型車の開発には四?五年かかる。「開発の段階から採算がとれるよう設計されていればいいが、新型プリウスの場合、急速な景気悪化やインサイトへの対抗といった後付けで値下げしたため、ディーラーへの販促費などを除いた一台当たりの利益はほとんど望めない」(トヨタ幹部)。こうしたなか、レクサス初の「HS250h」は四百万円を切る価格に設定される見通しで「新型プリウスとHSに挟まれるSAIなどは、どんな価格にすればいいのか、皆目見当もつかない」(同)と不安を募らせる。
まるで「自爆テロ」!?
これまでトヨタは、レクサスや「アルファード」など一台当たりの単価が高い高級車・大型車の拡販で二兆円を超える営業利益を稼ぎ出してきたが、新型プリウスを機に「これからは出るクルマ、出るクルマが値下げ圧力にさらされる。新型プリウスはパンドラの箱を開けてしまった」と、大手系列ディーラーの悩みは深い。
インサイトを意識し全四系列で売り出した戦略も販売現場に混乱をもたらしている。「トヨタの販売店同士で客の奪い合いをしている」(大手ディーラー幹部)のだ。最後発のネッツ店は「なかなか動かなかった層が新型プリウスの発売で買い替えに動き始めた」(ネッツ店幹部)と歓迎ムードだが、旧型プリウスを長年こつこつ販売してきたトヨタ店やトヨペット店ではネッツ店などへの恨みも聞こえてくる。トヨタはSAIについても章男氏の方針により四系列で売る方針。「長く棲み分けを保ってきた四系列が実質的に崩壊、淘汰が加速する」(トヨタ店幹部)動きは避けられそうもない。
その先にやってくるのは全国に散らばるトヨタ系ディーラーの経営危機だ。利幅の薄いプリウスがいくら売れても、他の車種が売れなければ運転資金の確保さえままならない。そのプリウス販売にしても、実際にディーラーに資金が入ってくるのは年末だ。「国内ディーラーのうち二百社以上は赤字。地銀などは地場ディーラーの資金繰りについて注視し始めた」(大手証券アナリスト)。
トヨタから見れば、系列部品メーカーへの支援以外にも、ディーラー網維持のための持ち出しも膨らむ懸念が急速に台頭する。「新型プリウスの値付けは自爆テロだ」と言い切る関係者も次第に増えてきた。
トヨタが去る五月に発表した決算見通しによると、二〇〇八、〇九年度のこの二年間で連結売上高は十兆円も減少する。高級車・大型車の販売減からプリウスのようなHV車やコンパクト車に軸足を移さざるを得ないからだ。地域別にみても金融危機の痛手を深く負った欧米市場から、シェア一ケタ台という中国やインド、ブラジルに活路を見いださざるを得ない。しかし十兆円の売り上げ減に対応できる体制作りができているかと言えば「課題であった小型車はいまだに儲からない」(トヨタ関係者)と、急速に萎む図体に中身がついていけない状態が続く。
こうしたなか、最後の生命線であった国内販売で「越えてはならない一線を越えてしまった」トヨタ。章男氏率いるトヨタ再生の道は予想以上に険しい。
この新型プリウスの大ヒットをもたらした最大の要因は何と言っても値付けだろう。二月にライバルのホンダが「インサイト」を二百万円を切る百八十九万円で発売し、トヨタの独壇場だったハイブリッド車(HV)の分野に殴り込みをかけてきた。発売から二カ月の受注が二万五千台を記録するなど滑り出しも上々で、昨秋のリーマン・ブラザーズの破綻以降、新車販売が萎んでいたなかで久々に明るい話題を振りまいた。これに過剰に反応したのが六月二十三日の株主総会後に晴れて社長に就任したトヨタの豊田章男氏だ。
「他のクルマが売れない」
日ごろから「お客様目線」の販売戦略を標榜する章男氏は、インサイトのヒットを受け、新型プリウスの価格について幹部に注文を付けた。「何とかインサイトに流れるお客を食い止めろ」。こうした章男氏のまさに鶴の一声で、当初予定していた二百三十万?二百四十万円の最低価格は大幅に見直された。「ある幹部は二百万円を切る価格を提案した」(トヨタ関係者)との証言もあるが、最終的に十四年ぶりに創業家から誕生する新社長の体面と「何とかヒットさせないといけない」(同)との周囲の配慮から、「どうにか採算に乗る」(同)二百五万円という最低価格に決定した。
しかもインサイト潰しのために従来は「トヨタ店」や「トヨペット店」に限っていた販売網に新たに「カローラ店」「ネッツ店」を加え、全四系列での販売も決めた。さらに旧型プリウスをインサイトと同じ百八十九万円に値下げし、これもトヨタ初となる新旧併売を実施、圧倒的な物量作戦でインサイトに対抗することにした。
株主総会に先立つ五月十八日には章男氏自らが新型プリウスの発表会の主役として登場した。この日も章男氏は終始引きつり気味で、会見後の記者の囲み取材も早々に切り上げるなど相変わらずの「メディア嫌い」「引っ込み思案」ぶりをみせたが、販売担当の幹部は「何とか無難に乗り切った」と胸をなで下ろした。しかし、今から思えばトヨタの苦悩はこの日から始まったことになる。
実は新型プリウス発売直後から、「他のクルマがほとんど売れていない」との嘆きが多くの販売店から聞こえ始めた。トヨタ幹部も「プリウスを除いた新車販売は前年比七割程度」と認めるように、新型プリウスが他の車種を食い始めた。深刻なのは「レクサスやクラウンを購入していた上顧客が、装備が充実して割安な新型プリウスに乗り換えるケースが増えている」(大手系列ディーラー幹部)ことだ。
さらに販売サイドが懸念するもっと大きな問題は、新型プリウス以降の車種の値付けである。この夏、トヨタはHV車ではレクサスで初のHV専用車「HS250h」を売り出すほか、今秋にはHVセダン「SAI」を発売する。だが「この新型プリウスの低価格が後続の新車価格にも影響を及ぼしている」(トヨタ関係者)。つまり、いったん売れ筋車種の車両価格を下げてしまうと「後続車種も勢い値下げせざるを得ず、従来の価格体系が崩壊する」(トヨタグループ会社幹部)事態を招くのだ。
新型プリウスも含め、通常、新型車の開発には四?五年かかる。「開発の段階から採算がとれるよう設計されていればいいが、新型プリウスの場合、急速な景気悪化やインサイトへの対抗といった後付けで値下げしたため、ディーラーへの販促費などを除いた一台当たりの利益はほとんど望めない」(トヨタ幹部)。こうしたなか、レクサス初の「HS250h」は四百万円を切る価格に設定される見通しで「新型プリウスとHSに挟まれるSAIなどは、どんな価格にすればいいのか、皆目見当もつかない」(同)と不安を募らせる。
まるで「自爆テロ」!?
これまでトヨタは、レクサスや「アルファード」など一台当たりの単価が高い高級車・大型車の拡販で二兆円を超える営業利益を稼ぎ出してきたが、新型プリウスを機に「これからは出るクルマ、出るクルマが値下げ圧力にさらされる。新型プリウスはパンドラの箱を開けてしまった」と、大手系列ディーラーの悩みは深い。
インサイトを意識し全四系列で売り出した戦略も販売現場に混乱をもたらしている。「トヨタの販売店同士で客の奪い合いをしている」(大手ディーラー幹部)のだ。最後発のネッツ店は「なかなか動かなかった層が新型プリウスの発売で買い替えに動き始めた」(ネッツ店幹部)と歓迎ムードだが、旧型プリウスを長年こつこつ販売してきたトヨタ店やトヨペット店ではネッツ店などへの恨みも聞こえてくる。トヨタはSAIについても章男氏の方針により四系列で売る方針。「長く棲み分けを保ってきた四系列が実質的に崩壊、淘汰が加速する」(トヨタ店幹部)動きは避けられそうもない。
その先にやってくるのは全国に散らばるトヨタ系ディーラーの経営危機だ。利幅の薄いプリウスがいくら売れても、他の車種が売れなければ運転資金の確保さえままならない。そのプリウス販売にしても、実際にディーラーに資金が入ってくるのは年末だ。「国内ディーラーのうち二百社以上は赤字。地銀などは地場ディーラーの資金繰りについて注視し始めた」(大手証券アナリスト)。
トヨタから見れば、系列部品メーカーへの支援以外にも、ディーラー網維持のための持ち出しも膨らむ懸念が急速に台頭する。「新型プリウスの値付けは自爆テロだ」と言い切る関係者も次第に増えてきた。
トヨタが去る五月に発表した決算見通しによると、二〇〇八、〇九年度のこの二年間で連結売上高は十兆円も減少する。高級車・大型車の販売減からプリウスのようなHV車やコンパクト車に軸足を移さざるを得ないからだ。地域別にみても金融危機の痛手を深く負った欧米市場から、シェア一ケタ台という中国やインド、ブラジルに活路を見いださざるを得ない。しかし十兆円の売り上げ減に対応できる体制作りができているかと言えば「課題であった小型車はいまだに儲からない」(トヨタ関係者)と、急速に萎む図体に中身がついていけない状態が続く。
こうしたなか、最後の生命線であった国内販売で「越えてはならない一線を越えてしまった」トヨタ。章男氏率いるトヨタ再生の道は予想以上に険しい。

















