「生物多様性」の危機を甘く見るな岩槻 邦男
2008年8月号 連載〈巻頭インタビュー〉
---生物多様性の危機が叫ばれます。生き物に何が起きているのですか。
岩槻 レッドリスト上の絶滅危惧種が世界的に激増しています。動物も植物も同様です。ヒトの生存を脅かしかねません。地球温暖化問題も、最も心配なのは生物多様性への影響です。
---前回の大絶滅はいつでしょう。
岩槻 恐竜が絶滅した、今から六千五百万年前です。巨大隕石が地球に衝突した結果とされています。しかし、その時に生物種に起きた変化のプロセスは数十万年を要した。現在は十年、長く見積もっても数十年の単位で種のありようが激変しています。恐竜受難時より、ざっと一万倍のスピードで種の淘汰が進んでいる。この事実を直視すべきです。
---岩槻さんの専攻は植物分類学とのことですが、植物の危機についてご説明いただけますか。
岩槻 一九八三年に東京大学に移り、付属の小石川植物園の責任者に就きました。日本の植物種がどんな状態にあるか調べる、この上ない機会と考えたのです。日本が誇るべきことですが、この国では北海道から沖縄まで、素晴らしいナチュラリストが日常的に活動し、長年にわたり周囲の山野の植物のありさまを記録しています。その協力を得て、短期間に日本で初めてのレッドリストをつくることができました。絶滅の赤信号がともる植物種の表です。
---結果は?
岩槻 調査した維管束植物、これはコケ類以外の陸上植物のほぼすべてですが、うち八百九十五種が絶滅の危険にさらされていた。調査対象の一七%で、恐ろしい数字だと思いました。
---六種に一種とはすごい率ですね。原因は何だったのですか。
岩槻 初調査から二十五年経った今日まで変わりません。第一が開発行為、第二が過剰採取、第三が環境変化です。開発は、生物の宝庫である山林や河川などを人間のための活動空間に変える。過剰採取は、特定の種を業者が集中的に採って商品にするため起きる。環境変化では温暖化の影響ばかりでなく、外来種の持ち込みで在来種が駆逐されるケースも見逃せない。すべて人間の営為が生み出した原因です。
---ヒトが単独犯ですか。
岩槻 そう、地球の生態系の中でヒトという種の営為があまりにも強力になりすぎた。ヒトも生物多様性の連環の中にあるからこそ生きていられることを、忘れかけようとしています。地球の歴史がつくってきたイノチのつながりの環を、我々は断ち切ろうとしているのです。
---自然は復讐する?
岩槻 食糧危機がその一形態かもしれません。穀物にしろ野菜にしろ、食材はすべて生物の種の贈り物だから、生態系の平衡が崩れると危ない。
---私たちに何ができるでしょう。
岩槻 地球上のヒトを含む生物世界に、危ない事態が迫っていることを知ること。多くの人々とその認識を共有することです。また、環境をできる限り損なわない生活態度。社会的関心の高まりは研究の発展、政策の進歩を促すでしょう。対策を打てば成果が出ます。日本では危機対応の結果として、絶滅危惧種数は二十一世紀に入ってからの七年間、一千六百六十五前後で増えておらず、リストから除かれた種もいくつかあります。しかし油断は禁物です。生き物たちはヒトの振る舞いをじっと見つめているのですから。
岩槻 レッドリスト上の絶滅危惧種が世界的に激増しています。動物も植物も同様です。ヒトの生存を脅かしかねません。地球温暖化問題も、最も心配なのは生物多様性への影響です。
---前回の大絶滅はいつでしょう。
岩槻 恐竜が絶滅した、今から六千五百万年前です。巨大隕石が地球に衝突した結果とされています。しかし、その時に生物種に起きた変化のプロセスは数十万年を要した。現在は十年、長く見積もっても数十年の単位で種のありようが激変しています。恐竜受難時より、ざっと一万倍のスピードで種の淘汰が進んでいる。この事実を直視すべきです。
---岩槻さんの専攻は植物分類学とのことですが、植物の危機についてご説明いただけますか。
岩槻 一九八三年に東京大学に移り、付属の小石川植物園の責任者に就きました。日本の植物種がどんな状態にあるか調べる、この上ない機会と考えたのです。日本が誇るべきことですが、この国では北海道から沖縄まで、素晴らしいナチュラリストが日常的に活動し、長年にわたり周囲の山野の植物のありさまを記録しています。その協力を得て、短期間に日本で初めてのレッドリストをつくることができました。絶滅の赤信号がともる植物種の表です。
---結果は?
岩槻 調査した維管束植物、これはコケ類以外の陸上植物のほぼすべてですが、うち八百九十五種が絶滅の危険にさらされていた。調査対象の一七%で、恐ろしい数字だと思いました。
---六種に一種とはすごい率ですね。原因は何だったのですか。
岩槻 初調査から二十五年経った今日まで変わりません。第一が開発行為、第二が過剰採取、第三が環境変化です。開発は、生物の宝庫である山林や河川などを人間のための活動空間に変える。過剰採取は、特定の種を業者が集中的に採って商品にするため起きる。環境変化では温暖化の影響ばかりでなく、外来種の持ち込みで在来種が駆逐されるケースも見逃せない。すべて人間の営為が生み出した原因です。
---ヒトが単独犯ですか。
岩槻 そう、地球の生態系の中でヒトという種の営為があまりにも強力になりすぎた。ヒトも生物多様性の連環の中にあるからこそ生きていられることを、忘れかけようとしています。地球の歴史がつくってきたイノチのつながりの環を、我々は断ち切ろうとしているのです。
---自然は復讐する?
岩槻 食糧危機がその一形態かもしれません。穀物にしろ野菜にしろ、食材はすべて生物の種の贈り物だから、生態系の平衡が崩れると危ない。
---私たちに何ができるでしょう。
岩槻 地球上のヒトを含む生物世界に、危ない事態が迫っていることを知ること。多くの人々とその認識を共有することです。また、環境をできる限り損なわない生活態度。社会的関心の高まりは研究の発展、政策の進歩を促すでしょう。対策を打てば成果が出ます。日本では危機対応の結果として、絶滅危惧種数は二十一世紀に入ってからの七年間、一千六百六十五前後で増えておらず、リストから除かれた種もいくつかあります。しかし油断は禁物です。生き物たちはヒトの振る舞いをじっと見つめているのですから。
〈インタビュアー 本誌・伊藤光彦〉

















