巻頭インタビュー

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「科学技術戦略」を練るべきとき池内 了(総合研究大学院大学教授)
2009年11月号 連載〈巻頭インタビュー〉

「科学技術戦略」を練るべきとき
池内 了(総合研究大学院大学教授)

1944年兵庫県生まれ。京都大学大学院理学研究科博士課程修了。国立天文台教授、名古屋大学教授などを経て現職。名古屋大学名誉教授。専門は宇宙物理学。著書に『ノーベル賞で語る現代物理学』(新書館)、『疑似科学入門』(岩波新書)など多数。

 

 ---政権が変わった今、期待できる科学技術振興策はありますか。

 池内 新しく国家戦略室なるものが作られた。何をするところかわからないと言われているが、科学技術立国たる日本の「科学技術戦略」こそ、そういった場で議論されるべき。第三期までの科学技術基本計画の五年という期間は短すぎる。短時間で結果を出せるものにしか予算が回らない。決定する総合科学技術会議は総理を議長に閣僚が並び、識者を加えて出されたテーマを話すだけ。これでは戦略は生まれない。評論家ではなく、研究の現場を肌で知っている人間がそれを論じるべきだ。

 ---どのような枠組みが必要ですか。

 池内 たとえば科学振興予算の三〇%は必ず純粋の基礎科学研究に回すというもの。これには性急な結果を求めず、ただひたすら注ぎ込む。国立大学の基礎科学研究費は運営交付金でまかなわれている。それが独法化後、毎年一%ずつカットされ、ウソではなく年間研究費が三十万円というところがざらだ。

 ---基礎科学の苦しさは切実ですね。

 池内 痛切に感じる。基礎研究には時間がかかり、失敗があっても当たり前。それを許容し、自由度を与えることが必要だ。国立大学独法化後、研究が評価されるが、その審査対象論文は四年以内のもの。こんな近視眼では基礎研究はできない。白川英樹博士は、かつて毎年百五十万円ほどの自由に使える予算があったからこそノーベル賞につながる研究ができたとおっしゃっている。現在は金も自由も与えない。

 ---研究内容を吟味し予算を集中配分する「競争的資金」は増えています。

 池内 それこそ見返りが予測できる分野に偏る。選考にも無理がある。たとえば自民党が補正予算で組んだ二千七百億円の「先端研究助成基金」がある。九十億円ずつの研究費が配られるが、五百件の申請をたった一カ月で三十に絞った。民主党政権で減額されたが選考結果は変わらない。共同研究で企業に金が回るようなテーマが選ばれたという指摘もある。基礎科学分野も選ばれているが、アリバイだろう。競争的資金も必要だが、その前に十万人の研究者に自由に使える予算を二百万円ずつでも配った上でやるべき。日本の高等教育予算のGDP比は〇・五%で、OECD加盟国の平均は一%。世界標準に合わせれば予算は出る。

 ---研究の現場の現状はどうですか。

 池内 老朽化した施設で予算もないなかで、精一杯やっているが息切れしている。さらに、目先の論文を仕上げるために、博士課程の院生が労働者として使われている現実から研究者も目を背けるべきでない。就職先を考えない国の方針ミスもあったが、博士課程で定員割れが起こっているのは、若い人が夢をもって研究できない現実もある。基礎科学という種を蒔かず、大学という畑は痩せ、研究者という農夫が減れば、今後この国に新たな果実はできない。今流行っているものなど十年後にはなくなっている可能性が高い。そのことを考えると、基礎研究に力を注ぎ環境を整備するのは当然なこと。

 ---環境が整えば、新たなものを生み出す潜在能力がこの国にありますか。

 池内 多少マニュアル化され画一的になったかとは思うが、今の若い研究者も優秀。だからこそ環境が必要。GDP比のことを考えれば、決して贅沢な希望ではない。古臭いが、資源のないこの国で、今こそ「科学技術戦略」を国家レベルで検討すべきだ。

〈インタビュアー 編集部〉


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